不動産の仕事は、なぜ「横」に広げる人ほど強いのか【南総合研究所】

  1. 不動産事業者向けコラム

 不動産業界に長く身を置いていると、業界の中にさまざまな「ジャンル」が存在していることを実感する。

 賃貸仲介、賃貸管理、売買仲介、不動産投資、開発、設計、施工、ビル管理、プロパティマネジメント、アセットマネジメントなど、一見すると同じ不動産業界に属しているものの、それぞれが独立した専門領域として存在しており、業務内容も求められる知識も大きく異なる。

 実際、自分自身のキャリアのスタートは賃貸事業だった。その当時は、不動産業界といっても売買仲介や開発事業はまったく別の世界のように感じていた。賃貸営業は賃貸営業の世界があり、売買営業には売買営業の世界がある。投資家向けビジネスには投資家向けビジネスの考え方があり、建築や施工にはまた別の専門知識が存在する。同じ不動産という言葉で括られているものの、それぞれのジャンルの間には大きな壁があるように感じていた。

 しかしキャリアを重ねれば重ねるほど、その考え方は変わっていった。今はむしろ逆である。不動産業界は細かく分かれているように見えて、実はすべてがつながっている業界だと感じている。そして仕事の幅を広げる人ほど、そのつながりを理解しているのである。

 まず賃貸仲介と賃貸管理を考えてみたい。同じ賃貸事業であっても、実際の業務はかなり異なる。賃貸仲介は反響を獲得し、来店率を高め、案内を行い、申込みを獲得することが重要になる。KPIでいえば反響数、来店率、案内率、申込率、成約率などが重要指標となる。一方で賃貸管理は入居率の維持、オーナー対応、滞納管理、原状回復、更新業務、修繕提案などが中心となる。重視する数字も異なる。管理戸数や入居率、オーナー継続率、修繕提案数、収益改善提案などが評価対象になることが多い。つまり同じ賃貸事業であっても、見ている景色は大きく違うのである。

 賃貸仲介の営業担当者は入居者目線で物件を見ることが多い。一方で管理担当者はオーナー目線で物件を見ることが多い。しかし本来、この二つは切り離せない関係である。仲介担当者が現場で得ている入居者ニーズは管理担当者にとって極めて重要な情報になる。逆に管理担当者が把握している設備不具合や競合状況は、仲介担当者にとって大きな武器になる。それぞれが別の仕事をしているようでいて、実際は深く結びついているのである。

 売買仲介と賃貸仲介も同様だ。賃貸仲介は比較的短期間で契約に至るケースが多い。一方で売買仲介は数か月から場合によっては1年以上の商談になることもある。必要となる知識も異なる。住宅ローンや税金、相続、資産形成などの知識が求められる場面も多い。しかし賃貸仲介を経験している営業担当者は、居住ニーズを理解しているという大きな強みを持つ。なぜその街を選ぶのか。なぜその間取りを求めるのか。なぜその設備が人気なのか。そうした利用者目線を理解していることは、売買仲介においても大きな武器になる。逆に売買仲介の経験者が賃貸事業を見ると、資産価値や出口戦略という視点を持つことができる。結果として双方の知識が融合し、より深い提案ができるようになるのである。

 不動産投資の世界でも同じことがいえる。例えば区分マンション投資と一棟投資では考え方が異なる。区分投資は比較的少額から始めることができ、立地や管理状況、賃貸需要が重要になる。一方で一棟投資になると建物管理、修繕計画、資金調達、出口戦略などより経営的な視点が必要になる。しかし根本にあるのは「入居者が選ぶ物件をつくる」という考え方である。賃貸需要を理解していなければ投資判断はできない。管理を理解していなければ収益改善もできない。売買を理解していなければ出口戦略も描けない。結局はそれぞれの知識が必要になるのである。

 さらに開発事業になると、そのつながりはより明確になる。開発担当者は土地を仕入れて建物を計画する。しかし計画を立てるためには賃貸需要を知らなければならない。どのような間取りが求められているのか。どのような設備が人気なのか。どの程度の賃料が取れるのか。こうした情報がなければ事業計画は成り立たない。また出口として売却を考えるのであれば売買市場も理解する必要がある。管理コストを考えるなら管理業務の理解も必要になる。つまり開発という仕事も決して単独では存在できないのである。

 設計や施工も同じだ。設計担当者が図面を描く際には、実際に入居者や利用者がどのように使うのかを理解する必要がある。施工担当者も建物を造るだけではなく、その後の維持管理や修繕のしやすさまで考えなければならない。管理会社が苦労する設計になってしまえば、長期的には建物の価値を下げてしまう。だからこそ設計者も施工担当者も、自分の専門領域だけではなく周辺業務を理解することが重要なのである。

 キャリアを重ねる中で強く感じるのは、不動産業界において本当に評価される人材は「専門家」であると同時に「総合家」でもあるということだ。もちろん専門性は重要である。ひとつの分野を深く極めることは大切だ。しかし専門性だけでは限界がある。賃貸しか知らない。売買しか知らない。管理しか知らない。そうした状態では提案の幅が狭くなってしまう。

 一方で隣接領域を理解している人は圧倒的に強い。オーナーから相談を受けたときにも対応範囲が広がる。顧客から質問を受けたときにも選択肢を示せる。社内でも他部署との連携が取りやすくなる。結果として仕事が集まりやすくなるのである。特に個人として活動する場合、この傾向はさらに強くなる。コンサルタントであれ、独立した不動産会社であれ、一つのジャンルだけで仕事を広げることは難しい。賃貸の相談を受けていると売買相談が来る。売買相談を受けていると相続相談が来る。相続相談を受けていると建築相談が来る。建築相談を受けていると管理相談が来る。現実の顧客は業界の区分けなど意識していない。顧客から見ればすべて「不動産の相談」なのである。

 だからこそ、こちら側も業界の壁を越えて知識を持つ必要がある。実際にそのような力を持っている人は、意外にも大手企業より地場の不動産会社に多い。地域で長く事業を続けている不動産会社の経営者や営業担当者は驚くほど守備範囲が広い。賃貸もやる。売買もやる。管理もやる。相続相談もやる。場合によっては建築やリフォームまで手掛ける。「これはうちの仕事ではありません」と言わない。まずは相談を受ける。そして解決方法を考える。その積み重ねが結果として地域での信頼につながっているのである。

 彼らの強みはまさに「何でもやる」という姿勢にある。もちろん本当に何でもできるわけではない。しかし何でも理解しようとする。何でも学ぼうとする。何でも挑戦しようとする。その姿勢が仕事の幅を広げ、人脈を広げ、事業を広げているのである。

 これからの不動産業界は人口減少やAIの普及によって大きく変化していく。ひとつの専門分野だけで生き残れる時代ではなくなっていくかもしれない。だからこそ重要なのは、自分の専門領域を持ちながらも、隣のジャンルに興味を持つことである。賃貸の人は売買を学ぶ。売買の人は管理を学ぶ。管理の人は建築を学ぶ。建築の人は投資を学ぶ。そうやって少しずつ知識の領域を広げていくことで、不動産人材としての価値は確実に高まっていく。

 不動産業界で本当に成長する人は、自分の仕事だけを見ていない。常に隣の仕事に関心を持ち、そのつながりを理解しようとしている。不動産という仕事は縦に深く掘ることも大切だ。しかしそれ以上に、横に広げることで見える景色がある。そしてその景色を見られる人こそが、長く活躍できる不動産人材なのだと思う。


記事提供:南総合研究所


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