文脈と物語性から楽しむ不動産会社、街、不動産自体とは?【南総合研究所】

  1. 不動産事業者向けコラム

 映画や音楽のようなエンターテインメントを楽しむ時、作品それ自体を楽しむ以外に作り手の文脈や物語性を楽しむ要素がある。たとえば、好きなミュージシャンの新作などは、以前の作品との違いや方向性などを楽しむことができるし、好きな作家においてもそれは同様だ。こうしたエンタメ以外にもスポーツなどもそうかもしれない。好きなスポーツ選手の背景やキャリアなども、純粋に好きなチームを応援することとはまた異なる楽しみを見出すことができる。野球選手で言えば、圧倒的な成績を収めながらもキャリアの後半になってだんだんと成績が悪くなり、それでも何とか乗り越えようとする人間ドラマなどに見入ってしまう。私自身、こうしたそのコンテンツの裏にある「背景」や「ストーリー」、「文脈」などが昔から好きだった。むしろ、こうしたものがないとなかなかコンテンツに夢中になれないというマイナスな一面もある。

 元来の性格なのか、私自身、仕事をするうえで不動産会社の方々と長く接していると、この「物語性」や「文脈」を感じることが多々ある。接する社長や従業員のかたに対してもそうだし、不動産会社に対する物語性に魅せられることが多いのだ。

 とある不動産会社は、10年程前に社長1人で創業した。当時は、不動産を買い取って再販することのみの小さな不動産会社だったが、そこから徐々に従業員を増やしていき、管理事業を拡大していき、さらに不動産テックの事業を開始し、今や誰もが知る不動産会社になっている。企業は、創業期から成長期、成熟期と段階を踏んでいくが、まさにこの会社のこうした事業ステップを横から見ていると、その時々のトラブルや成功などがまるでドラマのように感じられる。創業期は、少ないメンバーでの確執や軋轢、成長期は案件過多による組織の混乱、成熟期は組織の官僚的な縦割りに対する課題など、それぞれのフェーズによる特有の課題があった。ちなみに、現在その不動産会社は社運を賭けた大きなサービスを打ち出し、大きな挑戦の一歩を踏み出している。

 いっぽうこうした成長物語ではなく、失敗の物語も多く見てきた。詳しくは書けないが、順風満帆に見えた企業の失速や崩壊、これらの「物語」も何かしらの教訓はそれぞれ得ることができる。

 また、自分自身がコンサルタントであるがゆえにこうした不動産会社の紆余曲折が目に入るだけなのかもしれないが、最近は「不動産」というものに対してもそれぞれの「物語性」を感じる機会が増えてきた。

 実際の不動産業務でのご支援をしていると、よく中古物件の再生の案件や空室対策の相談などを頂く。その際に、当然のことながら本格的な物件調査を行うのだが、こうした中古の物件には、物件のそれぞれの「物語」がある。施工した際のコンセプトから始まり、修繕の履歴、そして入居者、利用者の変遷など、いろいろと話を聞けば聞くほどそれぞれが個別の歴史を持っている。さらに登記簿謄本などを閲覧すると、その物件の所有者の流れなども把握ができ、よりその背景が理解できるようになる。

 不動産業というのは、その物件の情報が何層もあるように感じることがある。表層的には、現在の募集条件や売値などの経済条件や現在の個室の設備仕様があり、その奥に行くと、これまでの入居者の変遷や設備修繕関係などのBM領域、稼働率などのPM領域があり、そのさらに奥の層には所有者の変節などがあり、そして最深部まで行くと、その建物の作られた理由やコンセプトなどがある。どんな建物にもそれぞれのストーリーがあり、実に奥が深いものだ。

 さらにこうした個別の建物だけではなく、それが集合した「街」にも重厚なストーリーがある。不動産業に携わるうえでこうした「街」や「駅」の変遷や物語は切ってもきれない関係がある。実際に開発により一気に人口が増えて不動産価格や賃料が上がった街もあれば、逆に過疎化したために空き家がたくさん増えてしまった街もある。マーケットの数値だけを見るのではなく、現在の数値に至ってしまった背景などを調べれば調べるほど、非常に興味深いことが発見されていく。

 このように自分自身が接する仕事においてもひとつひとつの「物語性」や「文脈」に注意して見ていくと自身の仕事自体にも多少の興味は出てくる。前半に紹介した不動産会社の物語やそこで働く人々の物語から始まり、その商材である不動産、そして街自体の物語に至るまで、表面的な部分では理解できないものがあったりするのだ。

 勿論、これは別に「不動産」という仕事だけの話ではない。冒頭に紹介したエンタメの世界やスポーツの世界もそうだし、我々の日常生活のなかにも多くの「物語性」は存在している。現在は情報が広く、ある意味で「浅く」拡散される時代だ。ふと立ち止まって自分の身の回りの「文脈」や「物語」に着眼してみると、新しい発見が生まれるかもしれない。


記事提供:南総合研究所


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