仕事柄、M&Aのご相談をよく受ける。M&Aのなかでも、私の仕事の特性上、おもに不動産会社の売却、買収の相談が殆どだ。ちなみに、この市場は、圧倒的に「売りたい」つまり事業売却を検討している企業より「買いたい」買収企業のニーズのほうが多くある。特に昨今は、多くの大手の不動産管理会社が、このM&Aに興味を持っているようだ。勿論、通常に管理物件を獲得するよりも、M&Aで管理会社を買収したほうが早期に管理物件を増加させることができるのも事実である。しかしながら、これがすぐに、かつ簡単にはうまくいかない。買い側のニーズに合う不動産会社の売却情報というものに、なかなか巡り合うことは難しい。また、この不動産会社の売却案件というのは、不動産業界内だけで情報が回っているわけではない。他業界からも非常にニーズの高い案件だったりもする。
目次
不動産会社のM&Aニーズ
では、なぜ不動産会社のM&Aは、このようにニーズが高いのだろうか?これは、「管理物件がある」ということが、大前提になっているような気がする。管理物件を保持している大きなメリットは、言うならば、ランニングでの収益がかなり高い確率で見込めるからだ。逆に管理物件のない、つまりストック収入のない不動産会社だと、なかなか案件として、マッチングが困難な印象を受ける。
とはいえ、今後も不動産会社(管理物件を保有している)のM&Aニーズは、ますます高まっていくだろう。業界の経営者の高齢化というのも、売却案件の増加に拍車がかかるかもしれない。いっぽうで、では、管理戸数をそれなりに保有している不動産管理会社のどれもが、売却案件として、価値があるのかと言われれば、そうではないのが、難しいところである。その売却案件の企業が、買収する価値があるか、言い換えれば、企業価値としての魅力があるかどうかというところが、非常に重要になってくる。企業価値が低い会社は、管理物件を多く保有していたとしても、なかなか高い価格でマッチングできない。逆に、多少管理物件が少なくても、企業価値の高い会社は、高値で取引されるケースが多い。
不動産会社の「企業価値」とは
今回は、この不動産会社の「企業価値」についてまとめてみたいと思う。
ストック売上が確保されているか
冒頭に記述した管理物件の保有件数がこれにあたる。当然、管理物件の数自体は、多ければ多いほど良い。ただ、問題なのは、その「収益性」の問題である。しっかりと、オーナーと「管理委託契約」を締結し、管理手数料収入を確保しているか。単純に、媒介契約の締結と無償管理では、なかなかストック売上は確保できない。相当数の管理物件と、それに比例する収益性が重要である。
各種書類関係の整理、また事業運営状況が可視化されているか
不動産会社において、契約書類が、何よりも大事なのは、言うまでもない。しかし、書類自体が何処にあるのかわからない、ということもザラにある。まず各契約書類がしっかりと整理、保管されていることが、大前提になる。また各事業の運営状況が、わかりやすく纏められているのかも重視される。税理士に投げっぱなしで、事業成績が毎月わからない、なんてことはないように常に可視化できる状態に保っておく必要がある。
物件情報、入居者情報がしっかりと整理されているか
上記の事業運営状況ではなく、物件それ自体の情報もきちんと纏めれているのかも重要になる。物件の稼働率、またオーナーレポートの履歴や、修繕記録など、各物件ごとに整理されていなければならない。また物件情報のみならず、入居者情報も同様である。入居者の情報が、しっかりと基幹システムなどに入力できているのかも重視される。基幹システムを導入していなくても、たとえば、エクセルなどに纏められているだけでも良い。
再現性が高いか否か
中小企業では、社長や幹部の力というのは、非常に大きい。しかし、徐々にでも、それが部下に委譲されているか、また「仕組み」として第三者でも運営できるかも重要になる。最悪なのは、社長、幹部がいなければ、管理物件の獲得も管理運営も全くできなくなってしまう、ということだ。これだと、なかなか買収側も腰が引けてしまう。
簿外資産が無いこと
簿外資産というのは、決算書類には「掲載されていない」取引のことである。実際に多くの中小企業では、この簿外資産が存在している。個人的な貸付や購入など、会社の財布と個人の財布が混同されていないかも重視される。
特に買収後に、このような簿外資産が発覚した場合は、大きなトラブルになりかねない。
会社のルール、規定は統一されているか
根幹である不動産事業だけではなく、会社のガバナンスにあたる評価体制や、営業フローなどが可視化されているのかも重要だ。また労務的なリスクはないか、コンプライアンス違反などがないかも当然重視される。
他にはない、もしくは負けない「独自のサービス」があるかどうか
この独自性が何よりもM&Aでは重要だ。企業価値を高めるために、他社とは異なるサービス、商材を生み出すことは、大きな企業の発展にもつながる。たとえば、そこまで売上、収益性が高くはない企業でも、他社とは異なる「尖ったサービス」があるだけで、企業価値はぐっと上がったりする。
勿論、それがサービスのみならず、SNSのフォロワー数などでも問題ない。リーチが可能なフォロワーを多数保有していることも、大きな価値になり得る。
まとめ
簡単にまとめてみたが、不動産会社の企業価値を高めるためには、「毎月のストックの売上を確保し」、「各案件、取引がしっかりと整理された」状況で、「顧客情報や物件情報もデータ化」する。そして、「ビジネスのフローを仕組み化」し、「組織ガバナンスにも力を入れておく」。
さらに「透明性の高い会計」を行い、「各種のコンプライアンスを徹底する」。そして、「他社には負けない、尖ったサービスを生み出す」
こう記述すると、シンプルだが、なかなか現実は難しい。しかし、上記を徹底して企業運営を行えば、驚くほど企業価値は高まる。
売却の検討をしていなくても、常に企業価値を高める努力を怠ってはいけない。是非、今一度、自社の状況を見直してみてほしい。
記事提供:南総合研究所