不動産業界は今、大きな転換期を迎えている。高齢化が進み、事業を次の世代へ引き継ぐ必要性が急速に高まっているのだ。特に中小の不動産会社では、オーナー経営者が70代、80代というケースも珍しくない。日本全体が少子高齢化社会に突入している中で、不動産業界もその影響を大きく受けていると言えるだろう。
こうした中、事業承継がスムーズに進むケースもあれば、期待通りにいかず苦戦するケースも多い。実際、事業を引き継ぐご子息がうまく会社を運営できるかどうかは、その経営手腕や準備の仕方にかかっている。成功例と失敗例を見比べると、いくつかの共通点が浮かび上がってくる。

事業承継がうまくいっているケースを見てみると、新たに経営を担った世代が単に事業を受け継ぐだけでなく、積極的にマーケティングやブランディングを含む経営戦略を考えている点が挙げられる。現代のビジネス環境は、かつてのように「地元密着の口コミだけ」や「過去の慣習」に頼るだけでは通用しない時代に突入している。成功している企業の新社長たちは、その点をよく理解しており、自社の資源や強みを徹底的に見直して活用しているのだ。例えば、地方の不動産会社が、SNSを活用して若い世代にアプローチしたり、古い物件のリノベーションに特化したサービスを展開するなど、新しいビジネスモデルを導入して成果を上げている事例もある。また、社員教育に力を入れて組織力を強化し、より強いチームを作り上げたケースも見られる。これらの企業は、時代に合わせた柔軟な発想と行動力を持っており、それが成功の鍵となっている。
さらに重要なのが、自社の資源をしっかりと活用していることだ。長年築いてきた地域での信頼や顧客基盤を活かしつつ、新しい事業展開を加えることで、より強いビジネスモデルを作り上げている。単に事業を「引き継ぐ」だけでなく、「変化に対応しながら進化させる」という姿勢が、成功に結びついているのだ。
一方で、事業承継がうまくいかないケースも少なくない。その多くは、「なんとなく」事業を引き継いでしまった結果、競争に敗れてしまうというパターンだ。親の事業を受け継ぐにあたり、経営の知識や経験が不足していることが原因になるケースが目立つ。特に、不動産業界は市場環境の変化が激しいため、従来のやり方をそのまま続けても通用しなくなってきている。同業他社との競争も激化しており、地元の中小不動産業者は全国規模で展開する大手企業や、デジタルツールを駆使したベンチャー企業とも戦わなければならない。こうした競争の中で生き残るには、経営戦略や市場の動向を学び、しっかりとした準備をする必要がある。
また、「事業承継=親のやり方をそのまま踏襲する」という固定観念も問題だ。時代が変われば、顧客が求めるものも変わる。現状に適応できないまま旧態依然としたやり方を続けていれば、顧客離れが進むのは当然だ。こうした状況に陥る企業は、自分たちのビジネスモデルが時代遅れになっていることに気づかないまま、売上が低迷していくケースが多い。

不動産業界に限らず、事業承継が成功するかどうかは、次世代のリーダーがどれだけ「ビジネスを学ぶ意欲」を持っているかにかかっていると言える。現代の経営は、ただ利益を追求するだけでは成り立たない。社会のニーズに応える商品やサービスを提供し、顧客満足度を高めることが重要だ。そのためには、マーケティングやブランディング、財務管理、リーダーシップなど、経営全般の知識をしっかりと身につける必要がある。
例えば、不動産業界では、IT技術の活用がますます重要になっている。オンラインでの物件紹介や、AIを活用した価格分析、顧客データの管理など、業務効率を高めるためのツールは多岐にわたる。こうしたツールを活用する能力を持たないと、競争に後れを取ることになる。加えて、地域の特性を理解しながら、時代のトレンドに合わせた商品やサービスを提供する力も求められる。例えば、地方の空き家問題に取り組むプロジェクトや、高齢者向けのバリアフリー住宅の提供など、新しいニーズに応えることがビジネスチャンスにつながる。
不動産業界の高齢化と事業承継は、今後ますます重要なテーマとなるだろう。ただし、単に親から事業を引き継ぐだけでは成功する保証はない。同業他社との競争が激化している現状では、次世代のリーダーがしっかりとビジネスを学び、時代に合わせた経営を行う必要がある。成功する企業の共通点は、変化を恐れず、柔軟な発想で経営戦略を立てている点だ。逆に、旧態依然とした方法に固執し、何の準備もなく事業を引き継ぐ企業は、競争に敗れるリスクが高い。これからの不動産業界を担う人々には、ぜひ新しい時代の経営を学び、挑戦し続けてほしいと思う。
記事提供:南総合研究所