不動産会社のブランディングは、なかなか目に見えない【南総合研究所】

  1. 不動産事業者向けコラム

 先日、とある新興の不動産会社の仲介スタッフのかたとお話しする機会があった。そのスタッフのかたは、最近その会社に転職したばかりだった。ちなみに、彼は、前職では大手の不動産会社に所属し、成績もトップクラスの営業メンバーだったそうだ。前職の仕事自体は充実していたようだったが、次第に大手の細かい業務ルールに嫌気が差し、自分の決裁権がたくさんある現在の小規模な不動産会社に転職したそうだ。

 転職した後の現在は、自分自身の方針で、ある程度自由に営業ができるため、それなりに仕事は充実してるようだ。ご存知の方も多いが、大手の不動産会社だと、契約ひとつにもかなりの事務義務が必要になってくる。データ入力だけではなく、他部署への報告、押印ひとつも押印申請書をあげないといけない場合もある。いっぽう、中小の不動産会社ではこうした煩わしさは、かなり少ない。報告等は必要ではあるが、関係者が少ないために、大手に比べて業務自体が軽くなる。

 ちなみに、その営業メンバーのかたは転職して、待遇も良くなったそうだ。大抵は待遇が一時的に悪くなることが多いが、幸いなことにそのかたの待遇は、転職により改善されたとのことだ。

 ここまで聞くと、転職して大成功のようだが、いろいろと話をしていると、ひとつだけその営業メンバーが、苦労していることがあるようだった。

 それは、「前職と比べて、来店率がとても悪い」ということだ。前職の会社よりも反響数も多く、接客すると、前職と同様に高い成約率を維持することができる。しかし、反響からの来店や接客の数が圧倒的に少ないようだ。ちなみに、そのメンバーが転職した不動産会社は、まだ創業して2年程度しか経過していない不動産会社である。

 こうした状況の場合、一般的な対策としては、追客を強化をしたり、広告掲載物件の質を上げるためにテコ入れを行う。実際にこうした対策を徹底していけば、ある程度来店率は改善されるだろう。

 しかし、現実には頭打ちにあってしまうことが多い印象だ。

 実際、一般のユーザーにとって、「名前の聞いたことのある不動産会社」というブランディングは、相当メリットになる。特に、大手のブランディング力は、とてもつもなく高い。もし自分自身も不動産業界に関わってなければ、「名前の聞いたことのある不動産会社」に来店する確率が高いだろう。

 さらに、その営業メンバーに詳しく話を聞いていくと、「来店を促したり、現地待ち合わせを促すと、急に返信がなくなってしまいます」とのことだ。たしかに、まだその不動産会社は、創業間もないため、Googleの口コミも少なく、SNSなども殆ど運用していない。なかなかユーザーに自社の魅力が伝わりずらいのかもしれない。

 

「前職では、いきなり当日に来店するお客様が多かったです。しかし現職では、こうしたことは殆どありません」

 一般的にブランディングというのは、なかなか数値では表せないものである。想起率という指標があるが、それは大手数社しか指標にできないものである。しかし、今回のような事例は、明らかにブランディングの差によるところである。上記に述べたように社内で来店向上の営業施策を打っても頭打ちにあってしまう理由が、このブランディング力の差のような気がする。実際、これは不動産業界だけの話ではないだろう。他の多くの業界でも、大手の旗を下げ独立した社長が直面する事柄だったりする。この「ブランディングの無さ」で、仕事がどんどんと少なくなっていた事例を、私自身も多く目にした。

 では、中小の不動産会社が大手のブランディングに全く勝てないのか、と言われるとけっしてそうではないのが、不動産業界の面白いところだ。

 定期的に、そして長期的に、SNSで物件動画配信を行い、高い来店率を維持している不動産会社もあれば、多くの口コミ数からユーザーが信頼して来店する不動産会社もある。実際に、こうした長期的なブランディング施策を実施して、来店が減少した不動産会社をあまり見たことがない。

 しかし、難しいところは、こうした施作は、なかなか「目に見えない」ということだ。冒頭に紹介した内容は、その営業メンバーが大手出身だからこそ感じたことである。もし大手の経験がなければ、自身の店舗の来店率が低いことを認識することはないかもしれない。

 また、「目に見えない」ことと同様に、「結果は長期的にしか表れない」というところがポイントだ。ブランディングの対策をして、数ヶ月で結果は出ない。また、仮に数年経過し、来店数が向上したとしても、それがブランディングの効果なのかどうかを実証するのは、とても難しい。

 そう考えると、「目に見えない」、「効果検証がわかりにくい」というこのブランディング施策を打つのは、かなり勇気がいるし、それなりの覚悟が必要になってくる。

 しかしながら、それを愚直に行い、しっかりと売上を上げている不動産会社も確かに存在しているのは、事実だ。

 もし、自社の来店率などに課題があった場合、社内の営業対策のみならず、長期的なブランディング施作を是非検討してみてほしい。なかなか骨のある作業だが、長期的に見れば、かなりの高確率で結果がついてくるだろう。


記事提供:南総合研究所


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