2023年の繁忙期を終え、新しい季節がやってきた。今年は、多くの仲介会社が忙しかったようだ。また都心の賃貸管理会社も多くの会社が、稼働率が回復したということを聞く。いっぽうで売買仲介市場は、徐々に都心部の成約数が減っているようである。価格の上昇と、ニーズの変化によるところが原因だろう。また、郊外の新築戸建ての物件の在庫数がなかなか減らないという話もよく耳にする。今後も様々な市場の動きに注意したいところだ。
話は変わるが、この繁忙期で賃貸市場では、より一層顕著になったことがある。それは、「snsを集客メインにする会社が増加している」ということである。これまでのポータルサイト一強時代が、徐々に変わりつつある印象である。これまでもこうした傾向は見られたが、コロナ禍もひと段落した今、より明確になってきた。InstagramやTikTokを使い、DMや LINEでやり取りを行い、内見を実施する。返信がない顧客に対しても、データベース化し、LINEで定期的に情報提供を行う。今やInstagramやTikTokで、多くの仲介会社が発信をしているのだ。こうした会社は、以前とは比にならない程増加している。
また、それと共にこの1年で不動産会社の社長が、自ら積極的にSNS発信するようになってきた印象を受ける。不動産会社の社長が、Twitterで事業の方向性や思いなどを発信する。時にはそれで論争が巻き起こったり、炎上してしまうこともあるが、しっかりとある程度は返信対応をし、自身の意見を伝える。こうした傾向は、売買系、仲介系問わず、より顕著になっている。
ちなみに、約10年ほど前までは、不動産会社の社長が自身のblogを使って発信することが多かった。blogで日常の出来事や、事業の思いなどを記事にし、発信する。これは、これで業界内の一部では盛り上がっていた。しかし、他のSNSの台頭により、こうしたblog文化は、殆ど無くなっていた。そもそも長い文章を書いたり、写真を掲載したりするのは、なかなか骨の折れる作業だ。忙しい不動産会社の社長にとっては、記事を書く時間を作るのも大変だったのかもしれない。
しかしTwitterではこうした億劫さがない。気軽に呟くことができる。また、こうした発信に対して多くのリアクションを獲得することができる。同時に、発信の規模(影響力)が、blog時代とは大きく変わった。
事業のあれこれや不動産業界への思い、社内組織についてなどざっくばらんに発信していく。もしかしたら他の業界(メディア、IT関連を除いて)より、より社長が発信している業界になりつつあるかもしれない。
先日、Twitterを積極的に発信している社長と話をする機会があった。
社長曰く、こうした発信で、採用活動がとても楽になったとのことだ。通常の採用活動のポイントとしては、いかに「会社を見える化」することが重要になってくる。既存社員のインタビューを実施したり、社内の仕事を細かく採用サイトに紹介したりして、求職者へアピールを行う。
このような「会社の見える化」の打ち手の最上の手として、「社長の呟き」が挙げられるだろう。求職者は、その会社と同じぐらい社長の人となりを見る。それは中小企業になれば、より顕著だし、今は大企業でもそうなりつつある。
また社長自身の発信は、採用活動と同時に、既存社員へのアピールにもなるだろう。社長がTwitterで発信する創業時の裏話などはなかなか普通に働いていると聞く機会がない。企業に対する思いを社長が発信することで、改めて社員のモチベーション維持に繋がっているかもしれない。
さらに、社長の発信は、人事的な目線だけではなく、社外の関係性構築にも役立つだろう。商談や会食のネタにもなるし、面識のなかった同業者から連絡を受け、そこから関係性が構築されることもある。
勿論、リスクもそれなりにある。何かトラブルになった時に、直接的に批判を受けることもあるだろうし、発信内容が原因で炎上するかもしれない。このあたりは、社長自身がしっかりと自重していかなければいかないだろう。
少し前まで、企業のTwitterと言えば、せいぜいプレスリリースの発信と、当たり障りのない発信のみだった。しかし、SNSマーケットの発展によって、企業自体のSNSの発信方法も大きく変わってきている。しかし、SNSの一番効果的な使い方は、「個人の意見や感性の発信をし、共感を得ること」である。こうしたことを考えると、会社の代表者のざっくばらんな発信がとても効果的なことは、間違いない。
今後も業界を通して、社長自身の発信が多くなっていくだろう。Twitterからの交流が発端で、業務提携などが結ばれる機会も増加していくはずだ。
とはいえ、会社の立ち位置や社長自身のスタンスの問題で、発信を控える社長も未だに多い。勿論、これはこれで全く問題はない。
しかし、時代の流れはより加速し、今後もより「個人の発信」が重要視されていく。改めて、「企業の代表として」のSNSの取り組み方を考えてみても良いかもしれない。
記事提供:南総合研究所