「ストーリー」重視が進む不動産広告の世界【南総合研究所】

  1. 不動産事業者向けコラム

ストーリーが重要視されるマーケティング

最近の巷のマーケティングでは、ただどのように「モノ」を売るかではなく、いかにその商品の「ストーリー」を売るのかが、重視されている。よく言われるように、この時代は、モノが売れない時代だ。そんな時代では、商品の「物語性」を他社の商品よりうまく伝えることが、より競争に打ち勝つ条件だと言われる。

 たとえば、「高級時計」などは、この要素が大変強い。時計の「機能性」よりも時計の「物語性」が、時計に付加価値を加え、より売価格を上げる。またそれに共感したユーザーがその付加価値を理解し、購買活動を行う。逆に言えば、高級品などでその商品に「ストーリー」が感じられない場合などは、その商品を売ることに苦戦するだろう。

 これからのマーケティングでは、より商品の物語性が重要視されていくのは間違いない。

それでは、不動産市場ではどうだろう?

 「新築分譲マンション」の売却活動などは、まさに「ストーリー」を打ち出している。また大型の分譲地の販売活動などもそうだろう。住んだあとの未来のイメージを消費者にアピールし、購買意欲をそそる。また、物件へのこだわりなどをパンフレットや、宣伝動画に盛り込み、愛着感を提供する。まさに高級品を売るための典型的なマーケティング戦略である。

 しかし、こうした「物語」をベースにした戦略は、ある意味、新築分譲系の商材しか不動産業界では一般的ではない。中古売買物件、ましてや賃貸物件などは、まだまだこのあたりの「物語」を打ち出したセールスは行われていない印象だ。

 当然のことながら、「物件」という商品は星の数ほどある。ひとつひとつの物件に物語を加え、売り出していくのは現実的ではない。しかし、たとえば売却やリーシングを強化する物件に焦点を絞り、物件のストーリーを加えることはできるだろう。

 おそらくこれからの厳しい市場で勝ち切る不動産会社は、こうした「物語性」の生成力と発信力を持つことが、必須となりそうだ。

 では、どのように中古物件や賃貸物件に「ストーリー」を加え、そして発信することができだろうか。

 以下は、「ストーリー」になり得る要素の事例だ。

・建築されたきっかけ、リフォームされたきっかけをアピール

 築浅の物件であれば、建築された背景などを調べてみても良いかもしれない。またリフォーム物件などであれば、施工会社や発注者などの意向をヒアリングするのも手だろう。

ポイントは、「どこに拘って施工したか」である。このあたりを深堀りしてみても良いかもしれない

・物件の立地

 物件に特徴がなくても、その立地が特徴的ならば、その場所に住んだあとの「ストーリー」を生みだすことができる。海の近く、郊外、公園の近くなどがそうだ。普段の物件情報では目に留まらない立地条件にフォーカスを当てる。そして「その物件に住んでみたその後のストーリー」を紹介していく。

・特徴的な設備

 最近では、IOTの設備導入などがそうだ。ただ単に「物件に〇〇という設備を導入しました」という広告ではなく、「△△という思いから、この設備を導入しました」としっかりと導入の背景を伝える。これは、簡単ながらとても効果的な方法だ。

・入居者のペルソナ化を行う

 たとえば学校近くの物件では、学生にターゲットを合わせ、その物件のストーリーを作り上げる。また、新婚さんに最適な中古物件などは、新婚二人が住んだ未来図をストーリーに盛り込み、広告を行う。こうしたペルソナ化は、そのターゲットが合えば、より住んだ後のイメージが想起しやすくなる。たしかにターゲットを絞り過ぎるのも良くないが、一度試してみても面白いだろう。

  以上のように、今後は「物件のストーリー」をいかに上手くユーザーに届けていくのかが、マーケティングにおいては重要になる。不動産というものは、ひとつの商品に関わる関係者が多く、なかなかこうした取り組みは行いにくい。しかし、不動産の「希少性」という観点から考えれば、この「ストーリー性」を使ったマーケティングは、非常に相関性が高い。

では、どのように発信していくのが良いか。

 これは、自社のメディアとSNSの2つが圧倒的に効果的だろう。ポータルサイトはあくまで「情報のカタログ」である。やはり自由度の高い自前のメディア(自社HP)とSNSの発信が効果的である。その物件の「背景」に拘り、ストーリーを紡ぐことで、蘇る不動産は多くある。これからは、「不特定多数に好かれる商品」よりも、「極めて限定的ながら確実に特定のユーザーに好まれる商品」のほうが良い。ぜひ、諸々検証し、新しいマーケティング戦略を実行してみてほしい。


記事提供:南総合研究所


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