不動産テックの次の波は「車ありき」検索かもしれない【南総合研究所】

  1. 不動産事業者向けコラム

 郊外在住で休日に自家用車を使い、都心へ仕事や用事で出かけても、駐車場が満車だったり、料金が非常に高額だったりして、結局のところ電車を利用するという状況は、多くの都市生活者が共通して抱える悩みである(私もその一人だ)。都心部では公共交通機関が極めて発達しており、特に東京23区における世帯あたりの車保有率は顕著に低い。例えば千代田区や中央区といった都心部の平均保有台数は0.2〜0.3台前後で推移しており、「車なし生活圏」としての色が極めて濃い。さらに世帯年収との相関も見逃せない。世帯年収が1,000万円以上でようやく半数程度の世帯が車を保有しているというデータがあり、車を所有するという行為自体が都市部においては「富裕層の特権」と化している。

 こうした環境の中で、たとえ賃貸のタワーマンションに住んでいても、自分の車を置ける駐車場に空きがなく困っているという声も少なくない。駐車場の月額相場が数万円を超える場合も多く、マンションの空き駐車場自体がそもそも供給不足であることもある。さらに機械式駐車場や立体駐車場に限定される場合、車種の制限や日常的な出し入れの手間も増える。都心で車を保有するには、金銭面だけでなくライフスタイル上のハードルが非常に高いということだ。

 一方で地方都市における住宅事情はまったく異なる。地方においては公共交通の便が限られており、自家用車は生活の基本インフラといっても過言ではない。そのため、不動産会社のコンサルタントを行っていると、「車ありき」で部屋を探したいというニーズが圧倒的に多いことに気づく。部屋探しにおいて「駐車場付き」はもはや前提条件であり、物件の敷地内に駐車スペースがあるかどうかが、契約可否に直結する重要な要素となっている。しかもそれは単なる「駐車場の有無」ではなく、「車種が入るか」「屋根付きか」「物件からの距離はどの程度か」など、さらに細分化されたニーズが絡んでくる。

 さらに、地方から東京へ移住してきた人々の多くがまず驚くのは、関東圏の鉄道網の密度である。東京都心では通勤・通学・買い物のほとんどが電車・地下鉄・バス・徒歩で完結してしまうため、「車が要らない」という感覚が自然に身につくようになる。しかしながら、23区内でも練馬区、足立区、荒川区、杉並区といった周縁部では車文化が根強く残っており、道路交通の便を考慮した生活設計が主流になる傾向が見られる。

 このように、都市部と地方での車に対するニーズの差異が非常に大きくなっているにもかかわらず、現在の不動産ポータルサイトのほとんどが「鉄道中心」の検索軸に依存しているという現実がある。SUUMO、CHINTAI、アットホーム、アパマンショップといった大手サイトでは、「沿線・最寄駅からの距離」「始発駅」「急行停車駅」といった項目が検索の中心であり、「駐車場付き」など車に関する情報はオプション程度の扱いにとどまっている。

 この構造は、ポータルサイト側が都市部の単身者や若年層、共働き世帯など「鉄道依存型」のライフスタイルを前提に設計されているためであり、地方や郊外の「車中心生活圏」におけるニーズとは乖離している。たとえば、物件検索時に「平置き駐車場」「機械式駐車場」「屋根付きガレージ」といった詳細な駐車場タイプを選択できる項目はほとんど存在せず、駐車場の空き状況や月額料金、車種の適合可否まで含めて物件検索と連動するサイトは皆無に近い。

 しかし近年、駐車場領域ではデジタル化とサブスクリプションモデルの進展が急速に進んでおり、月極駐車場の検索ポータルやデータベース化された駐車場情報が充実しつつある。LIFULL HOME’Sでは全国4〜5万件の駐車場情報を掲載しており、Park Directのように40万台を超える駐車場情報を保有するプラットフォームも登場している。さらに、衛星写真やAIを活用して空き駐車場をマッチングさせるサービスも実用化され、不動産仲介会社が物件情報とともに駐車場の情報もスムーズに提供できる環境が整いつつある。

 こうした駐車場情報の拡充とデジタル連携がさらに進めば、「車ありきの部屋探し」に特化した新しい不動産検索プラットフォームが登場する素地は十分にある。つまり、鉄道中心の検索軸ではなく、車所有を前提とした住宅選びを実現するサイトが必要とされている。たとえば、物件の詳細ページに「駐車場の空き状況」「月額料金」「敷地内か近隣か」「出入口の幅」「車高制限」などを明記し、リアルタイムに駐車スペースの予約や契約手続きまで可能な仕組みが整えば、これまでの不動産ポータルでは取りこぼしていた層に新たな価値を提供できる。

 また、都市郊外や地方に住むファミリー層・共働き世帯にとっては、保育園や学校、スーパー、職場までの「車による移動効率」が住まい選びの重要な指標になっている。従って、今後の部屋探しサイトでは、鉄道路線図ではなく「車移動マップ」や「朝夕の混雑度」などと連動したUI設計が必要になるかもしれない。

 そしてもう一つの視点として、車を単なる移動手段ではなく、趣味やライフスタイルの一部として捉える層に向けた「ガレージ付き賃貸」や「バイクガレージ物件」の専門サイトも拡大傾向にある。たとえば「東京ガレージ」などに代表されるように、ガレージハウス型の賃貸・戸建て住宅は、地方だけでなく郊外部でも一定の人気を博しており、こうした物件ジャンルを網羅する特化型サイトが今後さらに重要性を増すだろう。

 このように、「車ありきの部屋探し」は単なる検索条件の一つとして扱われるべきではなく、ライフスタイル全体を前提にした住まい探しという新たなフェーズへと進化しつつある。テクノロジーと不動産業の連携が進めば、「駅近物件」一辺倒の時代は終わり、「車生活前提」の部屋探しが今後の不動産マーケットにおける重要なテーマとなっていくだろう。現在の市場における空白を埋め、ユーザー体験を根本から変えるポテンシャルを持った領域であることは間違いない。


記事提供:南総合研究所


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