物件自体をコンテンツ化するという考え【南総合研究所】

  1. 不動産事業者向けコラム

 数年前、空き家対策の打ち合わせを関係各所と行なっていた。空き家の有効活用についてさまざまな議論をしたが、ご存知のようにこれは簡単に解決できる問題ではない。該当の空き家自体が「使える」=「住むことができる」空き家もあれば、建物自体が朽ち始めていて、そもそも使用すらもできない空き家もある。またエリアによっては、状態が良い空き家でもマーケットとして需要がなく、なかなか活用方法が見出しにくい空き家もあったりする。現在は、法律などの改正により、空き家を放置できないような対策が打たれ始めているが、全ての問題を解決することは、かなり難しいだろう。

 話は変わり、この10年で多くの「面白い取り組み」を始めた物件が生まれ始めた。たとえばペット対応物件などがそうだ。ペットの洗い場、さらにはドックランなどを完備し、内装もコンセントなどを上部に設置したり、くぐり扉などを設置したりするなど完璧な「ペット対応物件」として募集する物件などがそうだ。また、楽器対応に特化した物件なども存在する。全部屋、防音ルームの仕様にし、さらには共有部には練習スタジオなども完備している。こちらの物件は、音大生やミュージシャン志望の若者にかなりウケが良く、稼働率もかなり高いようだ。

 さらに変わったところだと、バイク好きのための物件などもある。個室にガレージをそれぞれ設置し、バイクをそのまま個室のなかに駐輪できるようにする。さらにその建物の一階はバイクショップだ。駅からは遠い物件だが、バイク好きにはたまらない物件だろう。

 住宅だけではない。コワーキングスペースなどもかなり趣向の凝らした物件が生まれている。ゴルフシュミレーターを完備したコワーキングスペースやセントラルキッチンなどがあるオフィス、さらにはサウナを併設したコワーキングスペースなどもある。

 これまで通常の仕様で新築物件を建設したり、内装を綺麗に仕上げるリノベーションなどを行っていた取り組みも、この10年で大きく物件自体をコンテンツ化する流れが生まれてきた。この流れは今後も続く気がする。さらに言えば、まだ生まれていない物件コンテンツがどんどん生まれてくるだろう。

 ちなみに私は、仕事柄、よく引越しの相談を受けることがある。とある人は、釣りが趣味のため、海の近くに引っ越した。駅からも遠く、いろいろと不便な場所だが、本人からするとベストな場所だそうだ。また、映画が好きなため、郊外の映画館の近くに引っ越した知人もいる。こちらの場所も交通の便は決して悪くないが、本人からすれば最高の立地の物件なのだろう。

 また、ワンルームの部屋を完全にゲーミングルームに変えた知人もいる。オンラインゲームが趣味の彼にとっては、自分の好みに合わせたこの部屋は、何よりも変え難い部屋なのだろう。

 また、少し前にとあるかたと、とある田舎にある物件の調査に行った。もともとは企業の保有地だったその物件は、「普通の観点」から考えるとなかなか市場ニーズのない物件だった。しかし同行した彼は、その該当物件をグランピングキャンプ場としてコンバージョンできないかを検討していた。彼からすると「掘り出し物」の物件になったようだ。

 このようにあくまで一般的に考えるとマーケット的な価値がない物件でも、人によっては、その物件がとても価値のあるものになったりすることが多々ある。また最近は個々の嗜好なども細かく分類されており、思いもしなかった物件に光が当たることもあるだろう。海の近くの物件は、サーフィンや釣りなどのマリンレジャーのコンテンツを入れることができるし、山の近くの物件には、キャンプの要素や自家農業を楽しむコンテンツを入れることができるかもしれない。

 そして、このような試みを成功させるためには、物件自体に「なんとなく」コンテンツを入れるのではなく、「徹底的に」入れることがポイントになるだろう。先に紹介したバイカー専用の物件などは、バイク事業者とコラボし、コンテンツ作りを「徹底的に」こだわっている。さらに、作った後の発信も重要である。プレスリリースやSNS発信などで積極的に取り組みをアピールすることで、この取り組みを広く周知することができる。さらに言えば、コンテンツの取り組みに対して企業とのコラボ、タイアップなども積極的に行うことで、さらなる収益化の道が開けるかもしれない。

 冒頭に紹介したように「空き家」といってもひとえにいろいろなタイプがある。立地的にも建物的にもどうにもならない物件が圧倒的に多いのが現実なのだが、それでも少しだけ見方を変えるとその物件の「ポテンシャル」を上手く引き出すことができるかもしれない。

 とはいえ、その物件のポテンシャルを引き出すのは、不動産事業者単体では難しいかもしれない。様々なコンテンツ利用を念頭に置きながら、広くアンテナを貼り、そしてその可能性を探る役割を担う組織もしくは人材が必要になるだろう。そして、それを上手く仕組み化できる機構などもその先には必要になるかもしれない。

 今後の空き家対策のひとつとして、近い将来、この物件の「コンテンツ化」の試みが重要になる日も近いだろう。


記事提供:南総合研究所


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