少し前に不動産業界界隈の皆様と会食をした際、昔の不動産業務の話で盛り上がった。悲しいことに、およそ15〜20年前の仲介業務のなかで、今や、ほとんど大手を振って意気揚々と紹介できる業務はない。仮にあったとしても、その業務紹介をすると、コンプライアンス的に一発でアウトの業務が大半だ。当時は、多くの会社が、そんなアコギな商売を行なっていた。現在も、不動産業界はそれはそれで、いろいろと問題があるが、当時と比べると、大幅に改善したように思う。
この数年、もっと言えば5年程度で、不動産業務は大きく変わった。この業務変革の理由は、クラウド化、SNSの発達、スマホの台頭、IOTの進化、ビッグデータの一般化の理由などが多いだろう。多くの業務は、こうした発展要因により、新しいツールに置き換えられるようになった。またコロナの影響も多大にある。もともと進化中だった業務改革が、コロナによってより進んだ印象だ。
では、こうした代替された業務によって、当時の全ての不動産業務が置き換えられたのかと言われればそうではない。進化のなかで、絶滅してしまった、もしくは絶滅しそうな業務もいくつかある。今回はこうした業務に焦点を当てて考えてみたい。
また、今後生まれるであろう新しい不動産サービスは、こうした「忘れさられそうになっている業務」がヒントになるケースが多いことも忘れてはならない。
目次
進化のなかで、絶滅してしまった、もしくは絶滅しそうな業務とは
・査定時の周辺業者のヒアリング
絶滅したわけではないが、コロナとともに、案件周辺の業者ヒアリングが、大幅に減ったような気がする。今や査定ツールは、ビッグデータにより、その精度が上がっている。しかし、実際、案件を具体化する際、近隣業者の声は、かなり重要である。「道を一本挟んだら、人気が落ちる」、「隣の住人が問題児だ」など、そこでしか知り得ない情報が多い。今や、こうした「物件中心のリアルな声を聞く」ことが全体的に減少している。
・賃貸仲介の「受付ヒアリング」
これもコロナによって接客自体が簡素化されたことにより、かなり減少した業務である。当時の仲介営業は、「受付、ヒアリング」が命だと再三言われていた。なるべく長い時間をかけてユーザーの要望をヒアリングするということ、これこそが営業の数字に直結するのだと。
しかし、今や、オンラインの問い合わせ、チャットのやり取りにより、簡易的な受付対応はこうした新しいツールに置き換えられるようになった。しかし、いっぽうで、顧客のニーズを聞き取り、最適な物件を提案する優れた営業メンバーは、なかなか育ちにくくなっているような印象だ。
やり取りは便利になったが、成約率が下がっている、という構造を打開できる新サービスが待たれる。
・物だし
まだ上記業務が健在の不動産仲介会社も多いが、総量として確実に減少しているだろう。物だしとは、各種サイトに掲載するために、毎日新規物件を確認する業務だ。今や、管理会社とデータ連動して掲載する仲介会社も多くなり、いわゆるこうした「目利き」の業務は減りつつある。逆にSNSでの物件掲載では、この物だし業務は、未だ健在だったりもする。
・街頭アンケート
街頭で個人情報を聞き出し、そこから投資物件の購入を提案するというチカラ技の営業手法。この数年で、これもコロナによりほぼ絶滅状態となっている。今や、こうした不動産会社も、WEBマーケを取り入れ、空中戦で熾烈な争いを繰り返すようになった。ただ、まだ一部の元気な不動産会社は、相変わらず精力的に声をかけている。
・ファックス仕入れ営業
これも絶滅したわけではないが、かなり総量が減ったと感じる。ファックスによる仕入れ営業は、少し前までかなり仕入れのトレンドとなっていた。今やファックスも、e-faxでデータで取得できる時代になっている。しかし未だに、地場の不動産会社は、頻繁にファックス用紙に目を通している。良物件などは、こうしたファックス営業からのインバウンドで獲得できることが多いことも事実だ。
・オーナー直接訪問
管理物件を切り替えるために、オーナーに直接訪問するという行為。これも、相当減っただろう。特にコロナの影響も大きくあるが、そもそもの不動産会社の営業スタイルが変わったことも理由だろう。オーナーをリスト化しアタックするにしても、DMを送付するなどのようにもう少し全体的にスマートになっているような気がする。
このように「完全になくなっているわけではないが、確実に減少している業務」は以上のようなものだ。やはり営業手法の変化が大きいだろう。コロナやツールによって、様々な業務が最適化され、今後もより不動産業界は、スマートになっていくだろう。
ただ、そうはいえども、この「絶滅しそうな」業務は、けっして効果がないわけでもない。むしろ、今もかなり効果的な結果が生まれやすい業務だ。本当の業務革新は、こうした肝となる営業活動が完璧に代替できることなのかもしれない。
記事提供:南総合研究所