どこかの社名を聞いて、その社名に対してさまざまなイメージが湧くことがある。たとえばとある飲料メーカーの社名を聞くと、「爽やかさ」や「爽快」、もっと言えば「炭酸の弾けるイメージ」を持つこともあるし、とある衣料品メーカーであれば、「コスパが良く、品質が良い」、「ファストファッション」のようなイメージを抱くことが多い。このように社名を聞くだけで、その会社の商品やイメージを一瞬で想起させることがブランディングのゴールかもしれない。それでは不動産会社の場合はどうだろう?不動産会社の場合は、実際のところそこまでしっかりとしたイメージを想起させることは、かなり難しい。おそらく社名を聞いても「聞いたことのある大手の不動産会社の名前」ぐらいのイメージが大半だろう。せいぜい「木造住宅が強い」、「街開発に力を入れている」ぐらいが限界かもしれない。このように実際は、不動産会社のブランディングというのは、意外に難しいものである。ブランディングの最終ゴールは、「その会社名を聞くだけで、商品イメージ、企業のイメージが湧いてくる」ことがゴールだが、大手不動産会社や不動産FC運営会社になるとそのゴールが一歩手前の「とにかく社名とサービス名を覚えてもらう」ということに終始してしまっている印象がある。そう考えると、不動産会社のブランディングというのは、難しいものなのだろうか?しかし、実際は、中小ベンチャーの不動産会社では、このブランディングを上手く推進できているケースもあるのである。
以前ご支援させて頂いた不動産会社は、富裕層のかた向けの高級賃貸物件の仲介業がメインだった。高級物件を集約したホームページを制作し、SEO施策で都内の高級物件を検索すると必ず上位にその会社の物件ページが掲載されていた。
当時、その社名を業界関係者に伝えるとほぼ100%の確率で「高級賃貸仲介を行っている会社」と関係者の皆さんは、想起していた。そして、そのブランディング力で、その社名は業界内だけではなく、都心の高級エリアに住む多くの一般ユーザーが認知していた。一般ユーザーが想起しているイメージも業界内のイメージと同様に「都心部で高級賃貸仲介を扱っているスタイリッシュな会社」というイメージだ。
また、とある会社は、リノベーション物件やデザイナーズ物件の紹介に非常に力を入れていて、その情報発信ツールとして業界内でいち早くSNSを利用した。この会社も先程の高級賃貸会社と同様に社名を言えば、一般ユーザーでも「オシャレなリノベーション、デザイナーズ物件を扱っている会社」と想起させることができていた。
さらに、他の事例としては、とある地域に非常に強い総合不動産会社が存在していた。この会社の社名を伝えると、業界関係者は、「○○のエリアに強い不動産会社」と一瞬で想起したし、さらにその特定エリアの住人は、「住まいのことは、〇〇の会社に相談しよう」と考えていた。
このように一部の中小不動産は、超大手の不動産会社では難しかった「社名を聞いたら一瞬でそのサービスや内容を想起させることができる」というブランディングに成功している。勿論、冒頭に紹介したブランディングのゴールである他業界の「爽やかさ」などの気分的な想起、「コスパが良く、品質が良い」などの具体的な商品イメージを想起させるまでは難しいが、それでもブランディング戦略として一定の成果を収めていることは、間違いない。
最近、複数の不動産業界のかたと話をした際に「自社のブランディングをしっかりと行っていきたい」という相談を受けることがある。しかし、根本的にそのゴールを明確にしなければ、なかなか難しいケースが多いように感じる。社名を覚えてもらうことがゴールなのか、それともその社名を聞いたらサービスやその会社の印象までも想起できるようになるのがゴールなのかで大きく戦略は異なっていくだろう。
残念ながら、多くの不動産会社では、「社名を覚えてもらう」ことをゴールに設定しがちだ。しかし、全国津々浦々の一般人の多くが、「その社名を聞いたことがある」までになるには、数億円どころではなく、数百億円をブランディングのためにコストとして投じなければいけない。いっぽうで、「特定のターゲットのユーザーがその社名を聞いたら、その会社のイメージやサービスが想起できる」というブランディングは、実現可能性が高い。数百億円のコストが発生するわけではなく、SNS広告等を上手く運用していけば、最適なコストで、ブランディングが確立できるだろう。
しかしそのためには、自社のサービスの確立やユーザーのターゲットをしっかりと明確にしなければいけない。ターゲットを明確にせず、なんとなくブランディング施策を実行しても、かなりの高確率で失敗するだろう。重要なポイントは、「誰に」、「どのようなサービスを提供し」、「どのようなイメージを想起させるか」である。
自社のブランディングを進めていきたいかたは、是非参考にしてほしい。
記事提供:南総合研究所