「金より“好き”で動く若者たち──変わりゆく不動産業界の現場」【南総合研究所】

  1. 不動産事業者向けコラム

 かつて不動産業界に足を踏み入れる若者たちの多くは、「とにかく金を稼ぎたい」という明確な欲望を原動力としていた。特にバブル期やその余波が色濃く残っていた時代には、高額な歩合給やインセンティブが魅力となり、体育会系の気質を持つ人間や、いわゆるギラギラした野心家たちが不動産業界に集まり、日々競い合いながら成果を上げていた。

しかし、時代は移り変わり、若者たちの価値観も大きく様変わりしている。現在の若い世代 -いわゆるZ世代を中心とした層の中には、「金を稼ぐこと」そのものに対する欲求よりも、「自分が好きなものに関わっていたい」「社会と心地よい接点を持ちたい」といった感覚が根付いている者が多い。こうした価値観の変化は、不動産業界においても確実に表れており、今では「住宅が好き」「街や暮らしに関心がある」「建築や空間デザインに惹かれる」といった動機でこの業界を志す若者が増えてきている。

 このシフトは、表面的にはささやかに思えるかもしれないが、業界全体の性質や方向性を根本的に変える可能性を孕んでいる。不動産業は、単なる「物件の売買」を超えて、「人の暮らしそのものに関与する仕事」だという認識が、徐々に浸透し始めているのだ。過去には物件を売ることが目的であり、その手段として顧客のニーズに応えるという構図だったが、現在では「どうすれば顧客が本当に納得のいく暮らしを送れるか」という視点に立って考える若手社員が増えつつある。

 特に顕著なのが、SNSや動画メディアの発達によって、不動産業務の可視化が進んでいる点だ。YouTubeでのルームツアー、TikTokでの物件紹介、Instagramでのリノベーション事例のシェアなど、若者たちは「住宅」に関する情報を日常的に消費している。こうしたプラットフォーム上で、「こんな家に住みたい」「この内装が素敵」といった感覚が育まれ、それが職業選択にも影響を及ぼしているのだ。つまり、「好き」が出発点であり、そこに仕事としてのやりがいや責任感が加わっていくという流れである。

 では、このような価値観の変化は、不動産業界の未来にとってどのような意味を持つのだろうか。一つ言えるのは、「顧客との関係性」が大きく変わるということだ。従来の「押し売り型営業」ではなく、より共感的で寄り添い型のサービスが求められる時代になる。住宅を「商品」として売るのではなく、「暮らしの提案」として提供するスタンスが主流になっていく。若者たちは、自分が関わった物件に対して愛着を持ち、「この家で暮らす人の人生が少しでも豊かになってほしい」と願うようになる。その結果、企業側も単なる売上目標ではなく、顧客満足や地域貢献、環境配慮といった指標に価値を置くようになっていく可能性が高い。

 また、若手社員自身のキャリア設計にも変化が見られる。かつてのように「年収1,000万円を目指す」といった直線的な目標設定よりも、「リノベーションの知識を深めて地域活性化に携わりたい」「将来的には自分の設計した空間を提供する側に回りたい」といった、より個人的で内発的な動機に基づく目標が重視されるようになってきた。これは企業にとっても大きな挑戦だ。彼らの個性や価値観を尊重しつつ、成長の機会を提供するマネジメントが求められるからだ。

 さらに、デジタルネイティブ世代ならではの特性も、業界の進化を後押ししている。物件探しや契約プロセスのオンライン化、VRによる内見、チャットボットによる顧客対応など、テクノロジーの導入が急速に進む中で、若手社員たちはそうした変化に柔軟に対応し、むしろ自らが推進役となることも多い。かつてのように紙の資料を使い、電話でアポイントを取り、足を使って物件を見て回るというスタイルから、より効率的でスマートな営業へと転換が進んでいる。これは、顧客にとってもストレスが少なく、より透明性のある取引へとつながっていく。

 もちろん、こうした変化が一朝一夕に業界全体を覆うわけではない。依然として高額報酬を目的とした営業スタイルが根強く残る場面もあるし、組織の体質が古く、若手の意見が通りにくい企業も少なくない。しかし、確実に「好き」を起点とする若者たちが、少しずつ業界の中で存在感を増しているのは間違いない。彼らが持つ感性、誠実さ、そして「暮らし」に対する真摯な関心こそが、これからの不動産業界をより豊かなものへと導く原動力となるだろう。

 最終的に、金銭的な報酬以上の「納得」や「やりがい」が得られる仕事こそが、現代の若者にとって魅力的なキャリアと映る。不動産という仕事が、「物件を売ること」から「暮らしをデザインすること」へと再定義されていく中で、これまで以上に多様な才能が集まり、それぞれの視点で新しい価値を生み出していく。その未来は、決して暗いものではない。むしろ、希望と可能性に満ちた、次の時代の到来を予感させるものだ。


記事提供:南総合研究所


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