私が新卒の時に勤めていた不動産会社は、「学生専門」の不動産会社だった。物件を問い合わせするユーザーのほぼ100%は、学生、もしくはその保護者だった。当時の自分は、こうしたサービスの優位性をあまり理解することがなかった。しかし、そうは言えども、繁忙期になると、店舗に顧客が開店前から部屋探しのために列を作る光景を見て、そのインパクトの大きさに驚いたものだ。
それから数十年が経過し、現在、多少の不動産会社様のご支援をしていることにより、この「ターゲットを絞った集客の威力」というものをつくづく実感している。ユーザーのターゲットを絞れば絞るほど、そのサービスのエッジを際立たせることができる。
当然のことだが、人にはそれぞれのライフステージがある。そのライフステージに併せて多くの不動産仲介サービスが生まれている。今回は、こうした「仲介サービス」を紹介してみたい。
・学生にターゲットを絞った仲介サービス
先述したように私が勤めていた「学生」に特化した仲介サービスだ。集客方法もポータルサイトで物件掲載を行うのではなく、自社のサイトを充実させたり、大学との提携を行ったりなどと、独自の路線を打ち出している。特にサイトのコンテンツも新入生をターゲットに絞っており、「はじめての一人暮らし」のコンテンツを多く提供している。
また集客のみならず、「物件自体のハード面」でも開発に力を入れているのが特徴的だ。 防犯性を考慮したセキュリティサービスや食事の提供など、学生ならではの喜ばれるサービスを物件の設備やサービスとして導入することで、他物件との差別化を図っている。
今後は、国内の学生のみならず、海外からの留学生などの集客もさらに強化していくだろう。
・法人社宅にターゲットを絞ったサービス
法人社宅の斡旋は、今や大手不動産ならではサービスとなっている。この20年ほどで一気に拡大し、浸透したイメージだ。
大手法人の単身転勤者向けの社宅の部屋探しを実施することで大きな成果を生み出している。また多くの管理物件を保有し、そこを家具付でマンスリー化することにより、対象法人、転勤者の負担を減らすサービスを提供している。
コロナ渦で一時的にニーズは減ったようだが、最近になり、また需要は回復しているようだ。こうした法人転勤者に向けたサービスは、今後もしばらく堅調に推移していくことが予想される。しかし、いっぽうでフリーランスの支援やスタートアップ企業に勤める社員などの部屋探しサービスは、そこまで浸透していないようである。もしかしたら今後は、世の中の働き方に応じて、こうしたかたをターゲットにした不動産サービスが生まれるかもしれない。
・カップル向けの仲介サービス
世の中には浸透していないが、カップル専門の仲介サービスや新婚向けの物件仲介(購入)サービスなどもある。ライフステージとして、カップルで新居を探したり、結婚をして物件購入を検討することは、現代ではスタンダードなライフスタイルである。
本来はこうしたカップル向けの仲介サービスはもっと生み出されても良さそうだが、なかなか浸透はできていない。これは、そもそもの物件供給量(ワンルームほどファミリー賃貸は供給されていない)の問題や、またそもそもの決定権者の決済(親への了承、カップルの双方の合意など)の難しさが、ネックになっているかもしれない。今後は、こうした問題点をクリアした新しいカップル向け、新婚向けサービスが生み出されていくかもしれない。
・リタイア後のサービス
高齢者向けの仲介サービスもここ数年で登場してきた。賃貸に関して言えば、入居審査の問題など、多くのハードルはあるが、今後の人口動態を考えると、こうした高齢者向け仲介サービスは、今後はより必要になっていくだろう。
また仲介サービスではないが、保有不動産を売却し、そのまま売却不動産に居住したうえで、家賃を売却者が支払い続けるという「リースバック」のようなサービスもある。相続や資産の処分など、こうした「ライフステージの後期」に向けたサービスも今後多く生み出されていくかもしれない。
仲介サービスとして、「学生」→「法人」→「同棲、結婚」→「老後」とライフステージに合わせたサービスを紹介してきたが、まだまだ他のライフスタイルに合わせた仲介サービスは世の中には少ない。たとえば「出産」、「Uターン」などにターゲットを絞ったサービスは、あまり多くは見られない。今後、より人々のライフスタイルは多様化していく。そのなかでもユーザーのライフステージの共通項を見出し、世の中に喜ばれる仲介サービス、不動産サービスが生まれていく可能性は大いにあるだろう。こうしたサービスが多くローンチされることを期待している。
記事提供:南総合研究所